両親や家族が滞納した税金ってどうなるの?
両親が亡くなり、数日が経過した後に、「実は、借金があったことが判明した・・・。」ということは多々あります。
同様に、自宅(不動産)を残して両親や家族が亡くなった場合、あとで「実は、固定資産税を滞納していたことが分かった・・・。」ということもあります。
両親が高齢だった場合、年金だけでは生活費で底をついてしまい、税金を支払う余裕までなく、滞納してしまっていたことがよくあるのです。
このページでは、「滞納した税金の支払い義務は誰にあるのか」「差し押さえされてしまうのか」「どんな対処法があるのか」を解説します。
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この記事は私が監修しています
安田 裕次
全日本任意売却支援協会
代表理事
目次
両親が滞納していた税金などの支払い義務は相続されるの?
亡くなった両親が滞納していた税金は、誰が支払わなければならないのでしょうか。
一般的に『相続』というと、土地、建物、預貯金などの財産を思い浮かべるかと思います。その財産の分割をめぐって兄弟間や親族間で骨肉の争いをする場面はドラマや小説でよく見ますね。
しかし実際は、借金や滞納していた税金の支払い義務など、決してプラスとなるような相続だけではありません。
通常、両親や家族の滞納していた税金の納付義務については、相続人に承継されます。自宅の名義が父ならば、その妻と子が相続人となり、妻がいなければ子が相続人となります。
つまり、妻や子に支払い義務があるのです。
相続する人が息子や兄弟、親族の場合
相続する人が息子や兄弟、親族の場合はどうなるのでしょうか。
親でなくても相続人となった場合、滞納していた税金などの支払い義務もそのまま相続人に引き継がれます。
滞納者と支払い義務のある人は、具体的にはこちらの表の通りです。
■滞納者と支払い義務のある人
滞納者 | 支払い義務のある人 |
---|---|
父 | 母(妻)と子 |
母 | 父(夫)と子 |
息子(未婚) | 親や祖父母 |
兄弟(未婚) | 親や祖父母 |
親族 | 法定相続人に相当する人 |
民法(887など)で定められた相続人を「法定相続人」というのですが、具体的には配偶者と血族です。
続いて、相続の順位として第1順位に相当する人を記載します。
■相続の順位と法定相続人
順位 | 法定相続人 |
---|---|
第1順位 | 配偶者と子(子が亡くなっている場合は孫やひ孫) |
第2順位 | 配偶者と親(または祖父母、曾祖父母) |
第3順位 | 配偶者と兄弟姉妹(または甥や姪) |
もし第1順位にあたる人がいない場合は、上記の表の第2順位の人が相続人となります。
どちらもいない場合は第3順位の人が相続人です。
参考)国税庁
相続人の対象となる親族の範囲
配偶者は常に相続人です。血族は優先順位の高い人から相続人になります。
優先順位としては、第1順位が直系卑属である亡くなった人の子供です。
ただし、子供が亡くなっている場合、孫やひ孫が相続人となります。なお、このことを代襲相続といいます。
配偶者や直系卑属にあたる人がいない場合、第2順位となるのは直系尊属です。具体的には亡くなった人の父母、祖父母などです。
さらに直系卑属、直系尊属にあたる人がいない場合は、兄弟姉妹が第3順位となります。
この兄弟姉妹が亡くなっている場合は、甥や姪が代襲相続することになります。
参考)国税庁
父が亡くなった後しばらくしてから、市役所や税務署から滞納明細が届いたときに初めて滞納していたことに気づく・・・ということがよくあります。
「お父さんが残してくれた遺産で老後はゆっくり過ごそう」と考えていたところ、実際は借金や滞納した税金の請求に追われる毎日になってしまった・・・ということが現実として起こり得るのです。
そのため、普段から、親や家族が税金を滞納していないか、借金はどれくらいあるのかについては、把握しておくことをおすすめします。
相続したら支払いの義務が発生するものには何があるの?
相続人が支払い義務を負うものは次の7つです。
【その①】税金
固定資産税、住民税など、両親が生前に滞納していた税金の支払い義務は、通常、相続人に引き継がれます。市町村の手続きにおいて、相続人と推定される人が「納税者」となり、その人の元へ自動的に納付書が届きます。
- 国税:所得税、復興特別所得税、贈与税、相続税、消費税(事業者だった場合)、酒税(製造者や輸入者だった場合)、たばこ税(製造者や輸入者だった場合)、関税(輸入者だった場合)
- 地方税:固定資産税、都市計画税、住民税、軽自動車税、国民健康保険税、不動産取得税、たばこ税(製造者や輸入者だった場合)
【その②】住宅ローン
両親が残した自宅の住宅ローンの返済がまだ残っている場合、その残りの返済義務をそのまま相続することなります。
【その③】マンションの管理費・修繕積立金
両親がマンションを所有しており、そのマンションの管理費・修繕積立金を滞納していた場合、マンションの所有権とともにそれら滞納金も引き継がれます。
【その④】クレジットカードの未払い金
両親がクレジットカードを使用していた場合、そのカードを引き継ぐことはできません。ただし、そのカードの未払い分の支払い義務は相続人に相続されます。
【その⑤】国民健康保険
国民健康保険を滞納していた場合、財産の一部として相続人に支払い義務が発生します。
【その⑥】借金
両親が残した借金の返済義務は、住宅ローンと同様に相続されます。
【その⑦】相続した税金の滞納処分
滞納者が亡くなった場合、相続人が滞納していた税金を代わりに支払うことになります。
よって滞納者が生前から滞納処分を受けていた場合、相続人はそのまま滞納処分を承継することになります。
税金の支払い期限が過ぎていた場合、本来支払うべき税金に加え延滞税が発生します。
その後、速やかに支払いをするよう督促状が送付され、それでも納付されない時には電話や文書などによる催告が行われます。
さらに滞納が続くと財産の調査が行われた後、差押えが実行されます。
詳しい流れについては、こちらの「税金滞納したらどうなる?」をご覧ください。
滞納した税金を相続した場合の措置
■滞納した税金を相続した場合の措置
措置 | 可否 | 詳細 |
---|---|---|
全額免除 | 不可 | 原則として免除はされません。しかし生活が苦しく、生活保護法の適用を受けなければならない場合には、滞納処分が停止され、延滞税は免除されます。また、滞納処分の停止が3年間続くと全額が免除されます。 |
時効 | 不可 | 税金は5年(贈与税7年)の時効がありますが、督促状の送付や差押えにより時効は中断されるため、事実上時効はありません。 |
分割支払い | 可能 | 納税により生活が苦しくなる場合、税務署や役所に申請をすると、納税の猶予が認められる場合があります。猶予が認められた場合、税金を分割で支払うことが可能になります。 |
こちらの表のように、相続する場合も、滞納された税金がある場合の措置は生前と同じです。
全額免除や時効はありませんが、分割支払いはできます。
いずれにしても、まずは残された財産(もしくは借金などの負債)の内容をしっかり把握してください。
というのも、資産(プラスの財産)より負債(マイナスの財産)が多い場合は、相続すると借金してしまうことになるからです。
こちらの「住宅ローンは相続するのでしょうか?」も合わせてご覧になってみてください。
滞納していた税金などの債務を相続しなくてよくなる2つの方法とは?
債務を相続しなくても良いくなる方法は、「相続放棄」と「限定承認」の2つです。
【方法①】「相続放棄」とは
相続人が相続するものをすべて放棄することです。プラスの相続財産も、マイナスの相続財産(借金)についても、すべて初めから相続人でなかったことになります。
【方法②】「限定承認」とは
プラスの相続財産からマイナスの財産(借金)を差し引いて、それでも財産がプラスであればそれを相続するということです。
ただし、この相続放棄と限定承認には注意点があります。
- 相続開始を知った時から3カ月以内に手続きする必要がある
- 限定承認には税金がかかる
注意点① 相続開始を知った時から3カ月以内に手続きする必要がある
相続開始を知った時とは、被相続人(両親など)が亡くなったことを知った日のことです。。この日から3カ月以内に相続放棄または限定承認の手続きを家庭裁判所にしなかった場合は、「単純承認」となり、すべてを相続してしまいます。
注意点② 限定承認には税金がかかる
限定承認は、プラスとマイナスの相続財産を差し引きして、プラスになる場合のみ相続するという便利な制度です。しかし、"みなし譲渡所得課税"という税金がかかります。
みなし譲渡所得課税とは、時価で財産を譲渡したとして被相続人(両親など)にかけられる税金です。この税金もマイナスの財産とし相続財産になります。そのため、この税金分も差し引かれることになるのです。
相続放棄ができないケースとその2つの対処方法とは
相続放棄は、相続開始(被相続人の死亡)を知った時から3カ月以内に家庭裁判所に申し出る必要があります。
そのため、葬儀をしたり、遺品を整理している間に3カ月を経過してしまうと、もう相続放棄をすることはできません。
対処法は2つあります
【対処方法①】誰が相続人であるか把握すること
例えば、父が亡くなった場合は妻と子です。父が亡くなり母がすでに亡くなっている場合は子のみです。
【対処方法②】亡くなったことを知った日を把握すること
"亡くなった日を知ったとき=相続開始を知ったとき"です。
この2点に注意して、相続放棄すべきかどうか熟慮する良いでしょう。
また、相続放棄ができる期間は、あくまで相続開始を知ったときから3カ月です。逆に言えば、死亡したことを知らなければ、この3カ月という期間が開始されません。死亡後3カ月が経過したとしても、その事実を知らなければ、相続放棄することは可能なのです。
任意売却をした後の残債務についても、相続放棄をすることが可能です。
よくあるパターンとしては、両親が任意売却をして高額な残債務が残った場合、両親が亡くなった際にその子どもが残債務を引き継がないようにするために相続放棄をするケースです。
当協会でもそのあたりのことをアドバイスさせていただいておりますが、任意売却後の残債務の支払いについては各金融機関は柔軟に対応してくれますので、厳しい督促もないため、却って残債務があることを忘れてしまいがちです。
くれぐれも忘れてしまわないように、お子さんにも任意売却をしたことはお伝えいただきたいです。
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