任意売却のデメリット
この記事を書いた人
安田 裕次
全日本任意売却支援協会
代表理事
任意売却について、「競売に比べてメリットが多いようだけど、デメリットはないのかな?」と不安に感じられる方もいらっしゃいます。
現実的には、わずかながら任意売却にもデメリットがあります。しかし、これは任意売却を成功させるために重要なことでもありますので、ぜひ把握していただきたいことです。
デメリット1 販売活動に協力しなければならない
任意売却は、競売になるまでの時間との勝負といえます。そのため、購入希望者の内見の申し込みに出来るだけ早く対応する必要があります。
スムーズに任意売却を成功させるためにも、所有者の方に販売活動のご協力いただく必要があるのです。
また、中には任意売却するのを他人に知られたくないという方もいらっしゃると思います。しかしながら、上記のように販売活動に協力していただく必要もあり、近隣の方に知られてしまう可能性は否めません。この辺りは、通常の売却と変わりありません。ただ、優良な業者であれば、依頼者の希望に出来る限り沿った販売活動を行うので、望まなければチラシなどで大々的に広告されることなどはありません。
デメリット2 売買契約書などの手続きをしなければならない
任意売却の成立に向けて最終的に契約と決済の手続きが必要です。契約とは、売買契約書に署名、押印して頂くことで売却する意思を確認すること。
決済とは、売買代金や固定資産税などの清算のこと。決済は通常、購入者が指定する金融機関(住宅ローンを借りる銀行)で行われます。
平日の午前中から始まることがほとんどですが、お仕事をされている方であれば、半日はお休みして頂く必要があるでしょう。なお、固定資産税の滞納があれば役所の方も徴収に決済場所まで来られます。
デメリット3 別れた夫、妻と連絡を取らなければならない
任意売却を成功させるために、離婚した夫、妻と連絡を取らなければならないことがあります。連絡を取りたくない、会いたくないという場合でも、次のふたつのケースでは連絡を取って頂く必要があります。
ケース1 別れた妻がその家に住んでいる
非常によくあるケースです。離婚された方の相談の8割は、このケースです。
離婚の慰謝料や養育費として夫が住宅ローンの支払いを続け、妻が子供とその家に住み続けるというパターンです。また、このケースでは、夫が住宅ローンの滞納のことが、なかなか告げられずにいることが多くあり、妻が退去しないなど任意売却のトラブルになることも多々あります。
住宅ローンを払い続けるという約束が守れない夫が連絡を取りたくないようです。 しかしながら、任意売却に際して当然ながら退去して頂かなければなりません。
早めに連絡を取って頂き妻と子供の引っ越しを促して頂く必要があるのです。
ケース2 離婚後、夫が一人で住んでいるが妻が連帯保証人場合
こちらも、よくあるケースです。夫が売りたいと望んでも、連帯保証人である妻の了解が得られなければ任意売却はできないので、連絡をとって頂く必要があります。
また、このケースで、妻からの相談でよくあるのが、「離婚したので私には関係ない」「離婚したので連帯保証人から外れたい」「離婚したので連帯保証人を変えたい」というもの。しかし、連帯保証人という立場は、契約当事者である夫と同様の責任を負います。離婚して住まいも別であっても、住宅ローンを支払う義務から逃れることはできません。残念ながら、返済義務をなくしたり、連帯保証人から外れたりすることはできません。いずれにしても、連絡を取り合い任意売却を進める必要があるのです。
デメリット4 連帯債務者、連帯保証人の同意が必要
多くの場合、連帯保証人になっているのは妻であります。ごく稀に妻の父が連帯保証人になっているというケースもあります。
どちらの場合も、連帯保証人の同意が必要となりますので、決済に同行して頂き、抵当権を抹消するための書類に署名、押印しなければなりません。
また、住宅ローンの残債が多く残れば、連帯保証人にも同様に支払い義務が生じるので、連帯保証人の方のためにも、今後の支払いについてしっかりと説明しなければならないでしょう。
デメリット5 債権者(住宅ローンを借りた銀行)と会わなければならない
住宅ローンを滞納している債権者(銀行)と顔を合わせるのはバツの悪いもののようです。また、任意売却の後にも住宅ローンが残る場合は、決済の時に今後の支払いについての説明が求められます。
まずは、支払える範囲で返済を続ける意思表示をしなければなりません。いずれにしても、誠意をもって対応する必要があります。なお、固定資産税の滞納があれば役所の方も決済場所まで徴収に来られます。
デメリット6 債権者(住宅ローンを借りた銀行)の応諾価格が高い場合がある
任意売却は買ってくれる人がいて始めて成立します。ただ、買主が納得して買ってくれる金額でなければなりません。
住宅ローンの残債に関係なく、買主が買ってくれる金額で債権者が応諾(抵当権の抹消)してくれないと任意売却は成立しないのです。より市場価格に近い金額で債権者に応諾してもらえるか、その金額で購入希望者が現れるか、任意売却の成否を決める重要なポイントでもあります。
デメリット7 個人信用情報に延滞履歴が記録される
個人信用情報に延滞の報告(登録)をされると通常7年間はその記録が残ります。世間でよく言われるブラックリストと呼ばれるものです。
延滞の記録が残ると、新たにカードを作ったり、ローンを組んで車を購入したりできなくなります。また、携帯電話の購入も難しくなることもあるようです。もちろんこれは競売になっても延滞の記録は残りますので、任意売却であっても競売であっても同様とお考え下さい。また、任意売却をしたので個人信用情報に延滞の報告が上がらないわけではありませんのでご注意下さい。
一方、住宅ローンを滞納し個人信用情報に延滞の登録がされると一生、住宅ローンが組めないと考える人がいますが、上記の説明にありますように7年後であれば、また住宅ローンが組める可能性が出てきます。実際、過去に任意売却のお手伝いをした方で再度、住宅ローンを組んで家を購入された方がいます。※住宅ローンを滞納した同じ銀行では難しいと思われます。
デメリット8 引っ越しを早くしないといけなくなる可能性がある
競売になって退去しなければならなくなるまでは、住宅ローンを滞納してから約1年かかります。それまでの間に任意売却を成立させなければなりません。
よって競売になり退去命令がでるまではそのまま住み続けることができます。任意売却で、買主が早く見つかり任意売却が成立すると、その段階で引っ越ししなければならなくなることがあります。よって競売と任意売却を比較すると、場合によれば競売の方がその家に長く住める可能性があるのです。
もちろん買主にお願いして引っ越し時期を相談することも可能です。競売になれば強制的に退去しなければなりませんが、任意売却なら買主を相談して退去時期を決めることもできるのです。
デメリット9 任意売却を扱う業者を自分で探さなければならない
任意売却は通常の不動産取引と異なり様々な利害関係者(債権者、役所など)がいます。 よって、より任意売却に対する専門知識や経験が必要となります。「駅前にある不動産屋に任意売却の相談をしても取り合ってもらえなかった」ということも耳にします。また、任意売却を扱う業者には、不当なお金を請求する悪徳業者も存在するようですので、業者を選ぶ目を必要となります。実際に、調査費や交通費を請求されたケースもあったと聞きました。
また、知識や経験の浅い不動産会社の担当者は、任意売却を引き受けてもやり方がわからないので、そのまま放置して競売になってしまったという方もいました。 それ以外にも最近は、インターネットを使って相談だけを受けて、その個人情報を別の不動産会社に売却する業者もいるようです。
上記の理由から、全日本任意売却支援協会では、複数の業者に相談し、比較検討した上で依頼する業者を決めることを推奨しています。
また、ごくまれに任意売却の相談者の方から「任意売却の手続き、私にできませんか?」と言われることがあります。結論から申し上げると「かなり難しい」と思います。以前、この質問を債権者の方にお聞きしました。すると、『債務者(住宅ローンを借りた人)から任意売却の申し出が直接あっても、「債務者本人には全額返してください」としか言えないのです。』とおっしゃっていました。よってご自身が直接、任意売却を行うことは難しいと考えて頂いた方が良いと思います。
以上が任意売却のデメリットです。あえて9つも上げましたが、良いことばかり期待せず、こんなデメリットもあるんだと理解して頂いた上で、任意売却の取引に挑まれる方が成功する可能性が増えると思います。一生のうちで一番高い買い物が家と言われます。その家を売却するわけですから、最低限の知識を身に付けていた方が良いことに越したことはありません。失敗したからもう一度、とできない任意売却。あなたの成功を願います。
全日本任意売却支援協会では、「任意売却のその後」についてもしっかりとご説明しますので、お気軽にお問合せ下さい。
この記事を書いた人
安田 裕次
全日本任意売却支援協会
代表理事住宅ローンアドバイザー、任意売却コンサルタント
宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー
不動産賃貸管理士、定期借家借地アドバイザー等、不動産やお金、保険に関する資格を有する。住宅ローン破綻者を競売から救うための「任意売却全国ネットワーク推進計画」 で、経営革新の承認を受けるなど、住宅ローン破綻者救済、任意売却事業の第一人者として活躍。